先日のニュースで「カナダで嗜好用のマリファナ合法化の法案が可決された」と聞き、驚いている人も多いのではないでしょうか?
CBCのニュースによると、北米での合法マリファナの市場はすでに100億ドル。
多くの日本人にとっては、マリファナ(大麻)=危険な薬物というイメージが強く、「カナダ、大丈夫!?」と心配になるのも無理はありません。
今日は、世界から注目されている「カナダでマリファナ合法化」に関するニュースや「知っておきたいカナダのマリファナ事情」をまとめてみました。
目次
1. カナダ全土でマリファナ合法化、2018年10月17日施行
カナダで今月(2018年6月)、嗜好品としてのマリファナの所持・使用を合法とする法案が可決されました。
2018年10月17日より施行される予定です。
医療目的としてのマリファナ所持・使用は2001年に合法化されていましたが、今回初めて嗜好品としてのマリファナも合法となります。
●州ごとに異なるルールの詳細
カナダ全土でこの新しい法律が施行されるものの、マリファナの生産・流通・販売に関するライセンス、使用場所、自宅での栽培に関するルールなどは、各州に委ねられています。
例えば、国としては18歳以上がマリファナを購入・使用できるとしていますが、各州はその年齢を上げることができます。実際に、ブリティッシュ・コロンビア州やオンタリオ州などでは、その年齢を19歳にするとしています。
(※カナダでは、州によって飲酒・喫煙・運転可能な年齢も異なります)
現時点(2018年7月1日現在)でブリティッシュ・コロンビア州とオンタリオ州が発表しているルールは、以下の通りです。
マリファナ購入・使用可能年齢 | 19歳以上 |
購入できる場所 | 政府管轄もしくは民営の店舗、もしくはオンライン |
使用できない場所 | 車内や子どもが頻繁に通る場所、全てのタバコ禁煙エリアでの使用は禁止 |
自宅での栽培 | 4鉢まで、公共の場を除く |
その他 | 大家は、自身の土地/物件にてマリファナの栽培や使用を制限することができる |
WEB | https://www2.gov.bc.ca/gov/content/safety/public-safety/cannabis |
マリファナ購入・使用可能年齢 | 19歳以上 |
購入できる場所 | 政府管轄の店舗もしくはオンライン |
使用できない場所 | 大家の制約に基づき、私有地でのみ使用可能 |
自宅での栽培 | 4鉢まで |
WEB | https://ocscannabisupdates.com/ |
●全国でマリファナ合法化は、世界2カ国目。お隣アメリカは?
国全土でマリファナを合法化するのは、ウルグアイに続き世界で2カ国目となります。先進7カ国(G7)の中では初です。
お隣アメリカでは、29州及びワシントンDCで医療用マリファナが合法化されていて、コロラド、ワシントン、オレゴン、ネバダ、カリフォルニア、アラスカ、マサチューセッツ、メイン、バーモントの9州及びワシントンDCで嗜好用マリファナの所持・使用も合法化されています。
2. 日本人驚愕!?「マリファナデー」まであるカナダ
photo from Facebook | Vancouver420
↑マリファナデーのイベント「4/20Vancouver」の様子
日本ではマリファナ(大麻)と、覚醒剤やヘロイン、コカインなどの麻薬も、すべてまとめて「薬物」として一括りにすることが多く区別がつきにくいですが、北米ではマリファナに対するイメージが異なり、マリファナはいわゆる「麻薬」と呼ばれるものとは分けて理解されています。
カナダへ来て、「マリファナを吸ったことがある/吸っている」と言うカナダ人に多く出会い、驚いた人もいるのではないでしょうか?実際に、LVスタッフの周りのカナダ人は、「タバコは吸ったことがないけれど、マリファナは勿論吸ったことある。」と、言う人も少なくありません。
また、カナダでは医療用マリファナが普及しているので、医者が患者にマリファナを処方することもあります。
カナダでは、
●広場で堂々とマリファナを楽しむ「マリファナデー」がある
●医療用マリファナの研究開発・需要・理解が進んでいる
●すでに医療用マリファナを販売するお店が街中にある
●現時点ではマリファナも不法薬物(illicit drug)の一つではあるが、英語で”illicit drugs”と言うと、マリファナを含まないcocaine/crack, speed, ecstasy, hallucinogens,heroinなどの薬物を指すことが多く、マリファナはmarijuana, cannabis, weed, potなどと呼ばれている
というのが、現状ではないでしょうか。
実際に、カナダのマリファナに関する統計を数字で見てみましょう!
●数字で見る、カナダのマリファナ事情
photo from Statistics Canada | National Cannabis Survey, first quarter 2018
2018年の国の調査では、15歳以上のカナダ人のうち、14%に当たる約420万人が「過去3ヶ月以内にマリファナを吸った」と回答。そのうち56%の人が、「毎日もしくは毎週吸っている」そうです。
2017年の国の調査によると、15歳から64歳のカナダ人のうち、約490万人のカナダ人が、合計57億ドルをマリファナに使用。一人当たり、平均約1,200ドルを払っていることになります。
同調査によると、90%以上のマリファナ購入者が、「医療目的ではない=嗜好用」としてマリファナを手に入れています。
つまり、現時点では「嗜好用のマリファナ=違法」であるにも関わらず、約440万人以上が医療目的外でマリファナを吸っていることになります。
photo from Unicef | Office of Research
ユニセフの調査によると、11、13、15歳のカナダ人のうち28%が、「過去一年以内にマリファナを吸ったことがある」と回答。
一方で、「飲酒をしたことがある」と回答したのは16%、「タバコを吸ったことがある」と回答したのは4%でした。
法律で禁止されているマリファナの方が、法律で禁止されていないお酒やタバコよりも未成年の手に入りやすくなっているという現状が分かります。
国の調査によると、2017年にカナダ人が海外から約3億ドルのマリファナを密輸入しています。一方、不法にカナダ国外にマリファナを密輸出した際の不法な売り上げは約12億ドルとなっています。
これらは不法な取引・収入で、言うまでもなく払うべき税金を払っていません。
また、これらの密輸には、密輸業者、犯罪組織、犯罪が絡んでいるという大きな問題があります。
3. マリファナの危険性は、アルコールの114分の1?
オバマ前大統領が「マリファナはアルコールほど危険ではない」と公言し、日本でも波紋を呼びました。
実際に北米では、「マリファナよりタバコやアルコールの方が危険性が高い」としているメディアが多数あります。
例えばアメリカのワシントン・ポスト誌でも取り上げられ話題となった、科学専門誌ネイチャーに掲載された研究結果によると、アルコール、ヘロイン、コカイン、タバコが「高リスク」に分類されているのに対し、マリファナは「低リスク」に分類されています。
photo from The Washington Post
マリファナは、アルコールに比べると約114分の1の害しかないということです。
ただし、マリファナに害が無いわけではありません。
こちらのカナダ政府のウェブサイトをもとに、マリファナの影響・危険性について解説をします。
●マリファナ使用による体への悪影響
●長期的な影響として、肺を痛めて呼吸困難になったり、メンタルヘルスに影響が出たり、マリファナ中毒になる可能性もある
●成長期にマリファナを吸ったり、頻繁な使用、継続的な使用はさらに害が増す
●10人に1人の割合で、マリファナ中毒になる可能性がある
●使用量などにもよるが、マリファナ摂取後6時間以上は影響が出るので、運転などを控えるべき
これらの悪影響を考慮し、カナダの連邦政府は、マリファナのパッケージに健康被害への厳しい警告を載せることを義務付けるガイドラインを制定しています。また、若者に向けた広告や著名人を使用した広告に関しても規制がかけられます。
4. トルドー首相は、なぜ合法化したの?
カナダのジャスティン・トルドー首相は6月19日夜、「子供たちが大麻を手に入れたり、犯罪者が大麻で利益を手にしたりするのが簡単すぎる状態だ。今日、我々はそれを変える。大麻を合法化し規制する我々の法案が上院を通過したところだ。#公約は守った」とツイートしました。
It’s been too easy for our kids to get marijuana – and for criminals to reap the profits. Today, we change that. Our plan to legalize & regulate marijuana just passed the Senate. #PromiseKept
— Justin Trudeau (@JustinTrudeau) June 20, 2018
ただし、マリファナが及ぼす様々な健康被害、マリファナ所持・使用が合法化される年齢が25歳から18歳に引き下げられた点などを踏まえて、合法化に反対している政治家も少なくありません。
ケベック州のレオ・フーサコス上院議員は、「この法案が間違いであると願っている。わたしは、この法案はカナダの次世代にとって破滅的なものになると思う」と同日にツイートしています。
Hope we are wrong on this piece of legislation. I think it will be catastrophic for Canadian generations to come. https://t.co/mUI4uZxOxN
— Senator Leo Housakos (@SenatorHousakos) June 20, 2018
5. マリファナ合法化で期待できること
トルドー首相のツイートにもあるように、今回のマリファナ合法化で見込めることは以下の大きな3点です。
●犯罪者がブラックマーケットで利益を手にできなくなる
●莫大な税収が見込まれる
マリファナの販売が合法化されると、国や州に認可されたお店でマリファナの購入が可能になります。よって、年齢確認などをせずにマリファナを売っていた闇取引や犯罪業者が激減すると見られています。
現在、カナダでアルコールの販売が法律で限定されているように、認可された場所でのマリファナ販売であれば、IDで年齢確認を行うことが義務付けられるので政府として管理がしやすくなります。
また、マリファナの税収も期待ができます。国の調査によると、2017年のマリファナの売上額は約57億ドル。しかしこの90%以上がブラックマーケット(闇取引)での消費と見られています。マリファナを合法化することにより闇取引が無くなり、税収が見込めます。
例えば2012年に嗜好用マリファナが合法化されたコロラド州では、マリファナのライセンス料と税金による税収は、2014年に6,700万ドルから2017年には2億4,700万ドルまで膨れ上がっています。(※参照:Colorado.gov)
6. マリファナ合法化で懸念されること
今回のマリファナ合法化に伴い、まだまだ国・州ごとに決めていかなければいけない事項が山ほどあります。
懸念事項のいくつかをご紹介します。
マリファナ使用中・使用直後に運転をしても良いのか?
規制する場合、どのようにチェックをするのか?
●職場でのマリファナ
職場でのマリファナ使用やマリファナの影響が出ている状態での勤務は良いのか?
雇用主が社員のマリファナ使用をチェックする権利は与えられるのか?
●借家でのマリファナ栽培
大家は、入居者がマリファナを栽培・使用することを規制することができるのか?
(マリファナを栽培すると電力消費量が増える、臭いがするなどの問題あり)
7. 忘れないで!日本国民にはカナダでも「大麻取締法」が適用
「カナダに来たからマリファナを吸ってみよう!」と思っている方もいるかもしれません。
日本の大麻取締法では、大麻所持罪や大麻譲受罪については、刑法第2条にしたがうと規定(大麻取締法24条の8)しており、刑法2条では「この法律は、日本国外において罪を犯したすべての者に適用する」とあります。
つまり、使用については明記していないものの、日本人が外国で大麻を所持すること自体について、大麻取締法が適用されます。
今後、アメリカのように、海外からの旅行者を対象とした「マリファナ・ツーリズム」がカナダでも盛んになる可能性はありますが、日本国民にとってマリファナに関わる事は違法になりうるという事は、必ず覚えておきましょう。
また、合法化されるとマリファナを使用したチョコレートやキャンディーなども出回ることが予想されますが、間違ってもマリファナを少量でも使用した商品を日本に持ち帰らないように注意してくださいね。
マリファナがカナダ全土で合法化される日は、刻々と近づいています。
まずはマリファナに関する正しい知識を身につけ、ジャスティン・トルドー政権が掲げる合法化のメリットと共に、マイナスの側面もしっかり理解しておきたいところです。
10月17日の施行前に、これから様々な詳細が詰められていきます。これからカナダに旅行・留学・ワーホリ・仕事などで訪れる方は、ぜひこうしたカナダのマリファナ事情について、ニュースなどでチェックしておいてくださいね。
※本記事は、各ニュースやデータを元に事実を解説するものであり、マリファナ合法化の賛否について意見を示すものではありません。