【カンヌ国際映画祭上映】TIFF出品作『寝ても覚めても』、濱口竜介監督に単独インタビュー

  

2018年も熱く盛り上がったトロント国際映画祭(Toronto International Film Festival/以下TIFF)。今年も世界各国から著名人が数多く訪れました。

そんな中、第71回カンヌ国際映画祭メイン部門となる長編コンペティションに選出された映画『寝ても覚めても』(英語タイトル『Asako Ⅰ&Ⅱ』)が、TIFF『Contemporary World Cinema』部門に出品されました!

『寝ても覚めても』は脚本の段階で、フランスの大手セールスカンパニーであるmk2 Films(エムカードゥ・フィルム)から、「ぜひ日仏合作をしたい!」と熱いオファーを受けた話題作なんです。

【ストーリー】
東京。カフェで働く朝子は、コーヒーを届けに行った先で亮平と出会う。真っ直ぐに想いを伝えてくれる亮平に、戸惑いながらも惹かれていく朝子。そして、ふたりは仲を深めていく。しかし、朝子には亮平に告げていない秘密があった。亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦(ばく)に顔がそっくりだったのだ−−。

『寝ても覚めても』公式サイトより

そして『寝ても覚めても』の北米プレミアに際し、メガホンをとった濱口竜介(はまぐち りゅうすけ)監督がTIFFに登場!

今回は、日本だけではなく海外からも多くの支持を受ける濱口監督にインタビューをしてきました。
不朽の名作『Back to the Future』の影響を受けたことなど、映画にまつわる秘話や撮影へのこだわりなど、お聞きしてきましたよ!

濱口竜介監督インタビュー

カンヌ映画祭、そしてTIFF出品おめでとうございます。今回TIFFで北米プレミアとなりますが、今の率直なお気持ちを聞かせてください。

正直にありがたい事だと思います。TIFFへの参加は全く初めてのことですが、非常に見識のある映画祭だとは聞いていたので、(TIFFに)選ばれた事がとても嬉しい事だと思っています。

映画産業が盛んな国・カナダの印象はいかがですか?

実はカナダに来た事自体が初めてなんです。昨夜着いたばかりなので、まだトロントという街を肌で感じるところまではいってないんですけれども、上映は本当に楽しみです。在トロント日本総領事にもお会いした時、「トロントの人たちはとても良い観客であると同時に厳しくもあるので、楽しみにしていて下さい。」と仰っていたので、いろんな意味で楽しみにしていますね。

カンヌ映画祭での上映の際、観客の反応はいかがでしたか?

基本的には好印象な様子でした。でも本当に反応が様々でした。というのも、『寝ても覚めても』という映画自体がとても様々な反応を引き起こすものらしいという事が、日本国内の様子も含めてだんだん分かってきたので、トロントでも様々な反応が出るのではないか、と思っています。

映画『寝ても覚めても』は、同じ顔をした2人の男性に惹かれるヒロインの恋愛模様を描いている。(photo credit by Toronto International Film Festival)

日本と海外の観客の反応の違いは、どのように感じられましたか?

これは国によって違う、という感じでもないような気がしています。国によって違うというより、本当に個人が持っている考え方や経験によって、(映画の)見え方が違うのではないかと考えています。国によって違いがあるというより、どんな人が見ても嫌いな人は嫌いですし、好きな人は好きだという反応を持つ映画だと思っています。

今作の映画を制作するにあたり、当初はどのような意図を込めて制作されたのでしょうか?

この反応は実は完全に意図通りと言いますか、(映画を見終わったときに)『どう感じたらよいか分からない映画』を作りたいと思っていました。ただその曖昧さの性質を多義的というよりは、両義的なものにしたかったんです。ものすごくはっきりした二つの感情の中で揺れ動くことで生まれる『言葉にできない何か』を目指していました。ですので、それを何とか言葉にしようとしたときにこのような両極端な反応が出るのは、ごく当たり前なのではないかと思っています。

*多義的:一つの言葉が多くの意味をもっているさま。また、話の内容などが多くの意味に解釈できるさま。
*両義的:一つの事柄が相反する二つの意味を持っていること。対立する二つの解釈が、その事柄についてともに成り立つこと。

『寝ても覚めても』は柴崎友香(しばさき ともか)先生が原作を手掛けていますが、その小説を映画化しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

『寝ても覚めても』の原作自体2010年に出版されていたのですが、僕が読んだのは2013年ぐらいだったんです。ただ単純に面白かったんですよね。柴崎さんの作品をいくつか読ませてもらったんですが、基本的にとても視覚的な文体なんですよね。それが映画を撮っている人間としてはとても心地よかったんです。自分たちが普段見ているものをそのまま描写しているため、すごく日常的な描写があります。『寝ても覚めても』に関しては、単に日常的だけではなくて、そこに『同じ顔した二人の男』というファンタジックな要素が加わって、とても両義的な小説になっていたんです。それが普段自分がやりたいことにとても近いと感じたので、映画化したいと思いました。

映画『寝ても覚めても』のワンシーン。(photo credit by Toronto International Film Festival)

以前濱口監督が、芥川賞作家の小野正嗣(おの まさつぐ)先生とトークショーをされた時、監督の作品は“映画『Back to the Future』が発端”と話されていた記事を拝見しました。その言葉の通り、『寝ても覚めても』を観ていた時、ヒロイン・朝子が過去から未来を辿っていく中に、同じようなシーンが何度もあって、けれど、全く同じではない、という何とも不思議な感覚を得ました。

ありがとうございます。まさにその通りで、同じようなことが繰り返されているだけで、こんなに映画が面白くなるということを『Back to the Future』から教わりました。(『Back to the Future』の映画の舞台だと)1955年から1985年の過去と未来があって、主人公が1985年にいた頃、繰り返されていたような関係性というのが、1955年にタイムスリップしても同じ街のその時代で繰り返されている描写があります。他にも、最初に語られているエピソードが少し違った形で現れたり。その繰り返しの中でも全く同じではなく、少し差があるんです。その差を感じた観客が、想像力の中でその差に面白みを見出すという部分が、『Back to the Future』からいただいたアイディアであり、こうすれば映画はもっと面白くなるのかという事を教えてもらえた点です。
僕が映画を撮る時、“反復”というのは意識的にやっている事なのですが、原作で面白かったのは、まさにその部分かもしれないですね。原作自体でも、“反復”という構造がすでに含まれているんです。同じ顔をした2人の男性に恋をするヒロインを見ているだけで、観客はいろんなことを思い描けるという事が、原作の良いところだったんじゃないかと思います。

映画『寝ても覚めても』ヒロインの朝子。(photo credit by Toronto International Film Festival)

“反復”という意味でも重要な役柄を演じ、一人二役という演技に挑戦された東出昌大(ひがしで まさひろ)さんは、どのような印象でしたか?

麦と亮平を演じていただくのは東出さんというのは、企画の段階から決まっていたんです。もともと麦の要素も、亮平の要素も感じさせる方だったので、ベストキャスティングだと思っています。これは主観的な感想になるのですが、ちゃんと違う人にしか見えない演技をされていて素晴らしかったです。多くの観客の反応を見ても違う人に見えているような感じでした。特に海外の人からすると、本当に違う役者が演じているように見えていたようです。

(写真右)映画『寝ても覚めても』で1人二役を演じた東出昌大さん(photo credit by Toronto International Film Festival)

男性2人に惹かれるヒロイン・朝子の恋愛模様は、多くの同世代の女性の共感を得られると印象がありましたが、映画を通して監督が伝えたいことは何でしょうか?

映画自体が曖昧さをテーマにしていますので、観客が、麦と朝子、亮平を通して、感じたものが全て正解であることではあると思います。
恋愛は人間の基本的な活動だと思いますし、そういう点で普遍性があるものだと思っているので、今現役で恋愛している人ももちろん、かつて恋愛していた人や、恋愛に憧れる気持ちを持っている人など、この映画と関係ない人はいないと実は思っています。なので、いろいろな方に見ていただいて、恋愛に関する経験や考えを照らし合わせて、自分なりの感想を抱いてほしいですね。できれば、それを他の人と共有してみると、その人の恋愛観や人生観が浮かび上がってくるので、それも面白いのではないかと思います。

個人的に映画を見終わった時の、あのなんとも言えない不思議な感覚は、確かに誰かと映画について語り合いたくなる気持ちになりました。

その言語化されていない感想が、とても素敵ですね。あらゆる感想の中で一番嬉しいのは、その言語化できないような感想かもしれないです。(映画の感想を)言語化できないように作っているようなところもあるので、その感想を抱きながら、他の人と話してみて、少しずつ(感想が)言語化されていくような体験をしてもらえると、とても嬉しいです。

監督がおっしゃられたように、映画を観ていて引き込まれる感覚に陥る、とても不思議で楽しい経験ができる映画でした。そして見終わった後に、改めて英語のタイトルが『Asako Ⅰ&Ⅱ』というのが、とても秀逸だと感じました。

英語がちゃんと分かる方だとそう思うみたいですね。今回、mk2から英語タイトルを提示された時、「どういう意味なんだろう?」という気持ちになったんですけど、(映画を観た)いろんな方から納得されていると聞きました。(タイトルの意味が)朝子の二面性ということなのか、朝子の二つの段階ということなのか、ニュアンスとして正確に捉えていないんですけど、皆さんの反応を見ていると、きっと秀逸な英語タイトルなんじゃないかと思っています。

映画『寝ても覚めても』ヒロインの朝子を演じた唐田えりか(からた えりか)さん。(photo credit by Toronto International Film Festival)

今作の映画は、『曖昧さ』をテーマにしたとのことでしたが、映画を撮る上での監督のこだわりは何でしょうか?

朝子という人を全部見せることですかね。英語タイトル『Asako Ⅰ&Ⅱ』で、Asako Ⅰが偽物で、Asako Ⅱが本物とかだと、あまり面白くないので、まったく異なるⅠもⅡも両方同じであることが重要だと思っていました。つまり、朝子の麦に対する想いも、亮平に対する想いも全て真実として見えるかどうか、という事が肝だと思いました。
(ヒロインを)唐田さんがそのように演じてくれたから、カンヌ映画祭にもTIFFにも呼んでいただけたと思っています。彼女のキャリアの中でも大きなターニングポイントなので、その感じがそのまま映画に映っているんだと思います。

映画を撮影していた時、印象的だったことはありますか?

そうですね・・・東出さんの2役が見事だったりとか、(朝子を演じる中で)唐田さん自身の表情がどんどん変わっていったりとか、色々ありますけれど・・・。天気がずっと良くなかった、というのがありますね。撮影期間1ヶ月だったんですが、ほとんど天気が悪かったんです。その年、2週間連続雨だったりとかしてこれは記録的なものだったそうです。雨のシーンはもちろん人工的に降らせているのですが、雨が降るシーンの時は、本当に雨が降りそうな雲行きでした。天気が悪い中でしたが、映画はむしろそれに助けられている気がしました。例えば、映画のワンシーンで雲が抜けていくシーンがあるんですけど、本当にそれが起こりそうな空の色をしていたり、映画の雰囲気と合っていたり。それがとても印象深かったですね。

それでは最後にトロント、そして日本に住むLifeTorontoの読者へ一言お願いします。

トロントは水辺の街、という印象があるんですけれども、実は『寝ても覚めても』も水辺の映画なんです。日本での暮らしとは少し違うかもしれませんが、水を通じてどこかで皆さんと何かが繋がっていると思っています。トロントの自分たちの生活と(映画を)繋げるつもりで、観に来ていただけると嬉しいです。

photo credit by Toronto International Film Festival

【濱口竜介プロフィール】
1978年12月16日、神奈川県生まれ。
2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同制作『THE DEPTHS』が東京フィルメックスに出品、東日本大震災の被害者へのインタヴューから成る『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(共同監督:酒井耕)、4時間を超える長編『親密さ』、染谷将太を主演に迎えた『不気味なものの肌に触れる』を監督。15年、映像ワークショップに参加した演技経験のない女性4人を主演に起用した5時間17分の長編『ハッピーアワー』を発表し、ロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞。一躍その名を世に知らしめた。自らが熱望した小説「寝ても覚めても」の映画化である本作で、満を持して商業デビュー。第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選ばれるという快挙を果たし、世界中から熱い注目を集めている。
(『寝ても覚めても』公式サイトより)

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